江州巡覧 2007年7月14〜16日

彦根までしばし移動。


坂田駅での停車中、不思議な構造の倉庫を見た。なんてアクロバティックなんだ。

彦根到着。レンタサイクルを諦めたので、城下町巡回バスを使用する。2,3分の乗り換えでバス乗り場直行。既にエンジンのかかっていたボンネットバスへ飛び乗った。

しかし、間もなく出発というバスなのに誰ひとりとして乗っていないので不安を感じる。バスの運転手と、案内役と思しきおばちゃんの二人が自分を見ていた。「これ、いいんですよね?」と訊くと、「どこへいきたいの?」と訊き返された。「龍譚寺です」と答えると意外だったようだった。フリーパスを買うように言われ、一日乗り降り自由の500円のフリーパスを購入した。

フリーパス購入は特に考えてなかったし、一回の乗車は200円なので、3回以上なら得となる。そのへんの説明がまったくなかったなぁ。他に客がいればともかく、「向こう側」の人間が複数いると言われるがままになってしまうなぁ。

間もなく出発。先ほどの「龍譚寺」という答えが気になっているようで、「龍譚寺って知ってたの?」と訊かれた。以前より来たいと思っていたことを話すと、運転手とガイドさんの二人が同じように驚いていた。さらに寺を観るのが好きだということを伝えると、再び一斉に驚かれた。ここまで派手に驚かれるのは初めてだ。ちょっとウザいけど、わりと気持ちいい。運転手からは「寺の息子か?」と問われたが、違うということ、仏教徒でもないこと、仏像と建築と庭園が好きだということを言っておいた。「若いのに凄いね」と言われたが、若さとはあまり関係ない。

先ほどまで木之本で寺を見てきたことを言うと、さらに驚いていた。「木之本地蔵尊行ってきたんやね?」と訊かれたので「そうですけど、それはあくまでついでで、実は自転車を漕いで己高閣と世代閣に行ってきたんです」と答えると一層派手に驚かれた。

ガイドさんは「龍譚寺に行くんやったら、すぐそばの清涼寺と、ちょっと歩くんやけど大洞弁財天もいったらええわ。ただ時間間に合うかどうか分らへんけど。このバス一時間後にまた来るんやけど、急いで観てきたら間に合うかもしれへん。ゆっくり観たいんなら、二時間後にまた来るからそれに乗ったらええわ。ただ、それが最終になるんや。先のキャッスルロードでほかの寺をたくさん観たいんなら、頑張って一時間後のバスに乗らないとあかんわ」と説明してくれた。

もちろん清涼寺と大洞弁財天はチェック済み。それぞれの規模と距離など、一時間ですべて観てこれると調べておいてあるので、たぶん一時間後のバスに乗れるはず。ちなみに「キャッスルロード」とは、彦根の城下町をイメージした観光エリア。寺が密集しているエリアでもある。おそらく人々の位牌を置くための(管理政策のための)寺町であろう。これまでの経験からすると、あまり見所のない寺が並んでいるはず。あまり期待はできないので、ここに時間を費やすくらいなら、彦根城を見たい。まぁ、このあたりは成り行きできめよう。

もし可能なら天寧寺まで行きたいと言ったところ、バスの時刻からすると厳しいので、自分が帰宅するときに車に乗せようか? とまで提案されてしまったので、申し訳ないので固辞した。

とりあえず龍譚寺で下車。

龍譚寺

龍譚寺は彦根城からみると北東の方角にある妙心寺派の臨済寺院。城下町というには離れすぎており、この先には大洞弁財天しかない(=行き止まり)ため、現在でも人の気配があまりしない場所である。今日は雨が強いので余計にさみしい。一応寺の前には、テーブルとベンチ、トイレの整備された広場があるが、はたして利用者が居るのか怪しい。

 
さて、ともかくも龍譚寺。門前にはムクゲ(木槿)が咲いていた。「龍譚寺白」と呼ばれるムクゲで、朝鮮通信使が寺に送ったものらしい。彦根城下町の宗安寺が、朝鮮通信使の宿泊所となっていたのだという。そのつてで手に入ったムクゲなのだろう。ということは、かつて龍譚寺は政治の方面で有力な寺であったということがうかがえる(ある種のコネクション、付き合いがあったのだろう)。ちなみに朝鮮語ではムグンファ(木槿花、無窮花)という。

 
門を入ると、境内には鬱蒼とした林が広がっていた。天候にもよるが、なかなか暗い。苔が見事だ。

さて、龍譚寺で公開されているのは方丈のみ。ある程度知名度のある寺だと思うが、自分以外に客はいなかった。


方丈内部は小さな部屋に分けられており、それぞれに襖絵が施されており、贅沢だった。全て森川許六という人物の筆によるものだという。

 
まず個性と表情豊かな獅子の間。方丈に入ってすぐ左手の間。なかなか大胆なタッチで面白い。

 


どれも表情豊か。愛嬌たっぷりだ。


これも森川の作だという。獅子とは全く違った繊細なタッチ。いろんなタッチを描き分けられる人なのだ。

 
龍譚寺サイドでも襖絵を押しているが、杉戸絵も大したものだった。それぞれ題材がわからないが、左画像は寒山拾得図だろうか…。右画像は? トラに乗っていることから、中国の神仙のような気もする。仏教というよりは、道教由来の題材かもしれない。トラが猫に似ていてかわいいぞ。舌なんか出しちゃってるし。日本人にとってトラはやっぱり想像上の動物だから、描こうとするとやっぱり猫をベースに描いたんだろうね。そうすると、どうしたってやっぱり「大きな猫」になっちゃうわけで。可愛いからこれでいいんだけどね。

 
他にも。題材不明。寺サイドの説明もなし。

 
鳥の杉戸もあった。鶏は不動明王につながるんだけど、あまり関係ないかな。タカの絵は唐獅子の絵のタッチにも通じるものがあり、大胆な描き方になっている。


これが龍譚寺イチオシの南庭「ふだらくの庭」。中央の「島」が観音菩薩が住むというポタラを表しており、すなわち捕陀落(ポタラ)。中央の「島」の向って右端にある石は、着岸している船を表しているとか。非常にきれいな庭で、ここでも雨が庭の「彩度」を一層高くしていた。

ここ龍譚寺には、かつて「園頭科」があり、学んだ僧侶が全国の寺院の作庭を手掛けたのだとか。襖絵といい、庭園といい芸術の寺なのだろう。「庭の寺」と呼ばれる所以である。

 
さて、気になるのは、庭の先に見える回廊と、それが連絡しているお堂。残念ながら回廊を渡ることはできなかった。先にある堂宇はおそらく本堂。回廊の下、その先は池になっているようだ。回廊を渡ると、池の上を渡っているような感じにもなるのだろう。

 
方丈中心には、本尊が安置されいるが、その手前側には、怪しげな黄金像が。禅宗ということで、マハー・カーシャパぽいが、なかなか悪魔的だ。手に乗っている獅子も怪しい。観るものをイライラさせるこのセンスは独特だ。

 
さて、方丈入ってつき当たりには、なんと巨大なだるまが控えていた。方丈東面は、達磨堂というべきスペースが広がっている。龍譚寺では年に一度だるまの法要があり、方丈中央本尊の前にたくさんのだるまを集めるのだという。このため「だるまの寺」とも呼ばれる。


だるまと一緒になっているのは、ピースをした祖師像。説明がないが、龍譚寺の開基というわけではなく、おそらく表情からして輪蔵を発明した傅大士だと思う。そしてこの両脇には笑い顔の童子たちがあったはず。ひょっとするとその昔龍譚寺には輪蔵があったのかもしれない。


もう一つ、麒麟の杉戸絵があった。

 
方丈の裏(北面)にも森川による襖絵がある。鯉に乗った仙人。左下の人物は、果たして喜んでいるのか、逃げられて悔しいのか…。何かストーリーがあるはずだが、わからない。

 
左画像では、上空に飛んで行った仙人が小さく描かれていて、その右下には手をあげて喜んでいる(?)童子の姿がある。右画像では、上空に龍が出てきている。左のほうに手をかざした仙人がいるが、ひょっとすると、こいつが手から出した龍なのかもしれない。


上の右画像には、瓢箪から馬が出てきている様が描かれている。要するに瓢箪から駒ということだ。マンがのような動きを示す線が入っているのが要注目だ。

 
他に馬や鳥を描いた間も。右画像で、鳥たちが線を描いて群れているのは、彼らの動きを示すためのもの。動かない「絵」というものに、どうにか時間的要素を含む動作を表現しようとしているのだ。その意味では、先ほどの瓢箪から駒の動きを示す線と同じもの。

これらすべて森川という一人の人物の手になる作品であり、この寺自体が、森川許六美術館というべきものになっている。ちなみににょきっと出ている黒い棒は、籠のかつぎ棒。となりの部屋に展示してあるものが突き出て、こちらの間まで出てきてしまっているのだ。


こちらは書院東庭の池泉式回遊庭園「鶴亀蓬莱庭園」。奥行きを感じさせる庭になっている。雨音が軽やかだ。

池泉式回遊庭園というのは、池が中心となることにより、その周りを歩くことによって、庭の表情を様々に楽しむことのできる庭園。なぜこのような庭園が寺院に造られるようになったのか、自分なりに考えてみると、ものの見方を考えさせるヒントということになろう。庭園には必ず中心となるべきものがあるというのが定石らしい。であれば、中心というのは被対象ということになる。たとえば、寺院の庭園では大体三尊を暗示する石が中心となったりするが、それこそが修行者にとっての被対象、すなわち仏である。ともかく、被対象へのまなざしは一通りではなく、見方によっては被対象は表情をいろいろに変えていく。それを表しているのが、池泉式回遊庭園なのだろう。臨済宗ということなら、公案への回答が一通りではないのと同じように、答えはそれぞれにある、ということになろう。


他に観音堂。非公開となっていた。10/18に開帳されるとか。


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