江州巡覧 2007年7月14〜16日

最終日三日目の朝。今日は午前に比叡山、午後は湖南の寺を巡る予定。移動距離が長いので、それほどあくせくしなくて済む。ただ、湖南では便数の少ないバスを利用するため、時間にはシビアでないといけない。

比叡山での行動にできるだけ余裕を持たせたいので、拝観開始時間前に着くようにしたい。

比叡山には坂本からケーブルカーでアクセスする。一番手軽なアクセス方法だ。他に京都八瀬からロープウェイなどを利用する方法があるが、乗り換えが多いので大変。坂本からのケーブルカーだと一本で済む。

終点京阪坂本駅で下車。


力強く「比叡山」と書かれたでかいスポーツバッグを背負って歩く修行僧、ではなく中学生。きっと比叡山関連の中学校の生徒なのだろうが、坊主頭に「比叡山」バッグ、そして寡黙に集団で歩く姿を見ると、なんだか修行僧に見えてしまう。

ケーブルカー乗り場まで15分ほど登り坂をゆく。「坂本」というのはこういうことか。


途中山王神社。大きい牛の絵馬が気になった。

ケーブルカー乗り場では、僧侶と寺の職員らしき人々(若い女性など)がおしゃべりしていた。毎朝このように「通勤」するのだろう。一人調子乗りの僧侶がいて、言葉づかいも悪く、若い女性に何かとちょっかいを出していた。こういうのを見ると、なんだかなぁと思う。もうちょっと要領よくできないか。何も一目につくようなところでなく、隠れてやりなさいよ。


往復ケーブルカー乗車券を購入。縁・福と書かれている。それぞれケーブルカーの名前らしい。

自分以外の乗客はすべて寺関係者だったようだ。無動寺の方へ歩いていったので、延暦寺の僧侶ではなかった。なんだか態度の悪い僧侶だったなぁ。


ケーブル延暦寺駅からの眺望。琵琶湖大橋がきれいにみえる。眺めていると、駅の職員が話しかけてきた。冬が一番奇麗に見えるのだとか。やはり空気が澄んでいて遠くまで見えるらしい。


ケーブル延暦寺駅。歴史を感じさせる。


駅から延暦寺までは10分ほど。途中タラの木を見つけた。春の若芽を摘んで天ぷらにすると旨いのだが、既に芽が固くなっていて食べられたものではない。

延暦寺


ねんがんの アイスソード えんりゃくじに きたぞ!

受付で東塔、西塔、横川全てをめぐるチケットを購入。なんとチケットに裏にはサントリーBOSSのロゴが入っていた。スポンサー付きなのだ。商売上手やなぁ。


萬拝堂の内部。12角形の土台の各側面には十二支が描かれている。たとえば薬師如来が載っているのであればまだ納得できるのだが、十一面観音の壇になぜ十二支なのだろうかと思う。こういう適当さが下品に感じる。


しかも混乱の度合を高めているのは、この堂宇の側面をぐるっと覆いつくした本地垂迹関係を示した展示。どうしてこの堂宇にこんなものがあるのだろう…。

隣は「一隅を照らす会館」で、案内所兼無料休憩所になっている。「一隅を照らす」とは、天台宗のスローガンで、これが入ったポスターなどが貼ってあれば天台宗の寺院に間違いない。

蛇足だが…。「一隅を照らす」とは「おせっかい」以外の何物でもないように感じる。「ひとりじゃない」「オンリーワン」などという言葉の聞こえはいい。積極的に生きようということだろうが、しかし、世の中にはひとりになりたい人、ひっそりと生きたい人は確実に存在するし、そういう人にとっては完全に「うっとうしい」スローガンでしかない。

誰に対してもスポットライトをあて、積極的に生きることは、果たして全ての人が望むことだろうか。ある人にとって自殺は、最後の選択肢でありうるし、その人にとってこの世で生き続けることは、死ぬより苦しいことなのだ。しかし、死を赦さないとしたら、その人にとっては地獄を生きよと言っていることと等しい。果たしてこれは救いなのだろうか?

人にとって死は最大の苦痛であるという認識は、必ずしも共有されているものではない。死刑制度は「あらゆる人にとって死が最大の苦痛である」という前提のもと存在しているのだが、その死を苦痛とも思わない人にとって死刑制度は全く意味を持たないのだ。

「汝が望むことを人にも為せ」とはキリスト教の教えではなかったか。これは価値観の押しつけでしかない。「一隅を照らす」というスローガンにも同じにおいを感じるのはただの勘違いだろうか。

何故「暗い」ことは「良くない」のだろうか。近代以降、都市には急速に街灯が整備されはじめたが、このことには、この世界に暗闇の存在を許さないという目的が垣間見える。人が人を監視し、徹底的に暗さを排除してきたのだ。

仏教には、絶えず社会に迎合してきたという不名誉な歴史がある。政治が戦争を始めれば翼賛し、戦争が終われば平和主義を唱え、環境問題が話題になれば自然との調和主義を唱え…。こういう調子の良さを、まずまじめに反省しなければ、仏教に対する人々の信頼を得ることは永遠にできないだろう。

仏教に求められているのは、社会とともに変動する倫理や道徳ではない。時にはそれらと相反するような事も言ってのけなければ、逆に信頼を得ることは難しいだろう。

「一隅を照らす」は、どこまでも欺瞞に満ちたスローガンだ。

…気を取り直して諸堂宇の見学を再開しよう。


大黒堂前の灯篭。星型のくりぬきが良い。

 
不気味な亀に乗った石碑。護良親王は確か天台宗の座主だったはず。そのため御していた場を以て、大塔と呼ばれるのだ。手前にはほとんど白色のアジサイが咲いていた。


まずこれを見なくては。根本中堂。比叡山の中心堂宇だ。

 
根本中堂をぐるっと囲んだ回廊の入り口には、隼?の彫り物が。それと猿。確か隼は愛宕神社の使い、猿は日枝神社(山王権現)の使いだったはず。鎮守とごちゃ混ぜになっているのか?

 
とにかく回廊の外側には、やたらと鳥が多い。

 
回廊の内部。なんだか荘厳な感じがする。

 
回廊内部にも鳥の彫刻が。どんな意味があるのだろうか…。

根本中堂内部は、荘厳。内陣と外陣に分かれており、内陣は立ち入り禁止区域。内陣の床は低くなっており、同じ天台宗の輪王寺三仏堂と同様の造りになっている。

中央の厨子内に薬師がいて、周りを十二神将が固めている。東寺の中心堂宇である金堂の本尊も薬師如来であり、この点においては台密(天台宗の密教)と東密(真言宗の密教)の違いがあるにもかかわらず、共通している。

というのは当然で、真言宗から言わせると、天台宗も顕教でしかなく、また東寺の金堂は顕教としての本尊を祀る堂宇なので、顕教における本尊である薬師如来を両寺とも祀っているのは当然なのだ。

なお、向って右は毘沙門天、左は祖師像が安置されている。蝋燭のみが内部を照らしており、荘厳な感じを演出している。

 
文殊楼。楼上に文殊菩薩が祀られており、上ることができる。階段は左右にあるが、ひとつのほうしか昇降できない。つまり、一方通行ではなく、昇降で衝突し、混雑してしまうつくりになっている。


文殊楼本尊の文殊菩薩。いろんな仏が祀られているのは、天台宗ならでは。まさになんでもありなのだ。

 
四天王。文殊にこいつらの組み合わせは不思議だが、山門に安置されていることを考えると、もともとは一緒でなかったのかも。

 
ここにも亀石。さらに不気味。口には今にも出そうで出ない玉を咥えており、これが悟りを意味している。石碑は、韓国の莞島郡が2001年に建てたものであった。なんでも、9世紀前半の新羅の清海鎮(現在の莞島郡にあたる)の張保阜という人物が、天台宗円仁が入唐の際に便宜を図ったことに因み、その功績を称えるものだとか。


大講堂に続く階段の麓に牛の石像。階段を下りてくる人をじっと見ているようで面白い。


階段を登り切ると鐘楼。東大寺で見たような重厚な鐘楼だ。

 
大講堂。入口中央に獅子の彫り物がある。

 
そしてその左右に龍と虎。何を意味するのだろうか。

大講堂内には、大日如来が祀られており、密教としての中心堂宇であることがうかがえる。また、延暦寺で修業し、各宗派の礎を築いた法然、親鸞、栄西、道元、日蓮の祖師像もあわせて祀られている。パンフレットには「等身大」とあるが、身長や体格などを知りうるべくもないので、嘘だろう。

国宝殿を見ていく。


厨子内に描かれた阿弥陀如来来迎図。扉の内側左右に観音、勢至、そして内部に阿弥陀如来と二十五菩薩。

 
不動明王。炎が3Dになっている。さらに炎の先が鳥の頭になっており、これがかるら炎であることを示している。


護法神像として展示されているが、十二神将中の辰大将だという。


維摩。


火天、水天、風天などだろうか。

 
ヤマーンタカとグンダリーニ。なかなか丁寧に作ってある。

 
ヴァジュラ・ヤクシャとトライローキャ・ヴィジャヤ。造形はスタンダードなものだ。

 
不動明王の二童子。主人の不動明王より鬼気迫るものがある。

国宝殿を出て、坂を登る。


坂の途中で戒壇院が見えた。内部は非公開。破風がついているので、近世のものであることは容易に分かる。扉に桃山のバロック趣味が垣間見える。輪蔵といっても分らない作り。


坂道を上り詰めると、東塔と阿弥陀堂が見えた。阿弥陀如来を祀るのも天台宗の特徴。念仏もやるのだ。

 
阿弥陀堂の前には何故か水琴窟があった。耳を済ませると、清涼な音が聞こえた。


東塔内部には、なぜか文殊の仏画が。


阿弥陀堂の裏手には回廊によって連絡している堂宇があった。怪しい。

さて、これで東塔の物件もあらかた見尽した。次に向かうは西塔。比叡山内にはシャトルバスが運行しているが、まだ運行が開始されていない。ただ、歩いてもいけることと、バスで移動してしまっては見落としてしまう堂宇などがあるので、歩いていってしまう。


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