妻沼聖天山歓喜院
足利市を後にし、埼玉県へと戻る。まんじまるさんが連れていって下さったのは、足利市と解散場所の間に位置する歓喜院だった。
通称「妻沼聖天」。妻沼は地名である。聖天ということで、ガネーシャが祀られている。弁財天と同様、聖天信仰も仏教なのか神道なのか判然としない民間信仰の一つ。
妻沼聖天の境内図。本殿に向かって直線的に参道がのびており、その間に三つの門がある。 貴惣門、中門、仁王門の順に抜けると、本殿が見えてくる。 大師堂があるところをみると、真言宗だろうか。 |
まず見えてきたのは護摩堂。不動明王の他、白衣観音、役行者が祀られている。 |
これが中門。貴惣門をとばしているが、駐車場が中門近くにあったため。 とりあえず貴惣門は後まわし。本堂へと向かおう。 |
境内図には「放生池」とあるもの。 本尊のガネーシャに意識してか、中心に親子の象が…。ちょっとかわいい。 |
仁王門。横にでかい。写真に収まりきらない。五間六柱だ。 少しブレているが、雨が降っているため。 |
なかなか装飾が細かい。妻沼聖天のパンフレットには「埼玉の小日光」と呼ばれる所以だ。右画像はツバメか? 三羽飛んでいる。
木鼻部分も細かい。だいたい木鼻といえば、象や獅子が彫られるのだが、ここでは鳥。枝の間に作った巣をイメージしているのだろうか。
反対側も鳥。植物の表現が細かくすばらしい。左のつがいは目を合わせている。
仁王門の主役、仁王。 「じょうだんじゃないよ」的な右手(歳がバレる)。左手はグーだが、親指は中に入れないらしい。 |
仁王門を抜けると本殿が見えるのだが、残念ながら改築中であまりよく分からなかった。
ちなみに、本堂ではなく本殿。境内図にもそう書いてある。ここも仏教なのか神道なのかよく分からない部分だ。
信徒会館なのか、本殿の代わりなのかよく分からない堂宇に入ってみた。 左は「人世曼荼羅」と名づくる曼荼羅。中心に閻魔、その左右には裁判官や記録係の十王が構えている。興味深いのは、閻魔も含め全員にそれぞれ対応する梵字が付与されていること。 そして眼前には、鬼に苦しめられる人びとが描かれている。いわゆる地獄図だが、その中に地蔵菩薩が立って地獄道の者を救っている。なお、地蔵菩薩は六道全てに立ち、人を救っている。閻魔天の本地は地蔵菩薩であるという。 一番興味深いのは、人の一生を表した、閻魔背後の人の行列。右から左へ人間が成長し、そして老いて死ぬまでの道程を描いている。 中心に据えられた「心」の文字といい、この曼荼羅は熊野曼荼羅の一種だろう。 |
熊野曼荼羅は、主に「絵解き」という方法に拠って解説される。識字率の低い時代にあって、特に女性に対して絵解きが行われた。
それがなぜ「人世曼荼羅」と名付けられてここ妻沼聖天にあるのかはよく分からない。
同じ堂宇にあった白象と白馬。白馬は神馬として神社に置かれたりするものだが、白象も寺院では聖なる動物として「花まつり」の際に引っ張り出される。 妻沼聖天は本尊がガネーシャなものだから、なおいっそうのこと信仰の対象となっているのだろう。 |
さて、参道を後戻りする。 残っているのは貴惣門。境内のスタート地点にある大きな門だ。 |
どうだろうか。通常見る門とはかなり装いが違うのが分かる。屋根が三つ重なっているように見える。弘前にもこんな門を持つ寺があったけど、…名前を忘れちったい。二層目の内部に空間があるかどうか、かなり怪しい。
「埼玉の小日光」。ここの彫り物も凄い。左画像、下の梁の部分につがいの鳥がいる。分かりづらいが、左に仙人、右に竜がいる。波の表現が凄い。
右画像は、上に鳳凰、下につがいの虎。
上部分の左右にはそれぞれ竜が。 下部分には三羽の鳥。 やけに鳥が多いなぁ。竜が彫られるのはよく見かけるが、鳥はあまり見たことがない。 |
上部分には鳳凰、下部分には親子の獅子。右の方にいる子獅子は鞠にじゃれている。 |
木鼻には獅子。このへんは確かに小日光だ。
貴惣門に立っているのは、多聞天(左)と持国天(右)だった。それぞれ宝塔と金剛杵を持っているので分かる。
それぞれが踏む邪鬼たち。右の邪鬼、いい顔してるなぁ〜。漫画みたいじゃないか。
ほか、貴惣門にも鳥を彫った木鼻があった。仲むつまじいつがいの鳥たち。
今回も、仏教なのか神道なのかよく分からない信仰施設を多く巡った。最近になって少しづつ感じていることだが、こういう民間信仰のほうが、信仰としてはかえって本質的なものなのかもしれないと思っている。
例えば、仏教の説く空や縁起それ自体は宗教、あるいは哲学や思想ではあるが、信仰ではないのではないか。信仰とは、論理を超えた、もっとパワーのあるものなのではないか。理性では片づけられない、泥臭くて人の垢にまみれたものなのではないか。最近そう感じている。
さて、今回もまんじまるさんにはたいへんお世話になりました。最近はたくさんのイベントを企画されたり参加されたりと精力的に活動されていて、私の手の届かないところに行ってしまわれた感じがしますが、またいつか一緒にのんびりと関東近郊の土臭い民間信仰の場を巡りましょう。ありがとうございました。