カイディン帝廟
フエ郊外には、グエン朝の皇帝たちの廟(位牌を安置する場所)が点在している。13人のグエン朝の皇帝のうち、廟が存在するのは、
1.ザロン帝、
2.ミンマン帝、
3.ティエウチ帝、
4.トゥドゥック帝、
5.ズクドゥック帝、
9.ドンカイン帝、
12.カイディン帝
の7人だけ。他の6人については、様々な事情があって造営されていない。そこには宮廷の陰謀や、植民地化後の宗主国フランスの事情などが絡んでいる。たとえば、ハムギ帝などはアルジェリアに、タインタイ帝、ズイタン帝はレユニオン島(アフリカ)に流刑になっているし、バオダイ帝については退位させられた最後の皇帝なので、廟など当然造営されなかった。
さて、参加したツアーでは12代目のカイディン帝廟と4代目のトゥドック帝廟を見学する。クィンさんによると、これら以外の帝廟は荒れていたり小さかったりと見応えに欠けるらしいのでコースに入っていないとのこと。しかし、ガイドブックなどをみるかぎり2代目のミンマン帝廟もなかなか良さそうなので、いつになるか分からないが機会があったら是非訪問してみたいと思う。
14:45。カイディン帝廟着。12代目の皇帝の廟所で、「応陵」というのがこの廟の本名。
一段目への階段。 カイディン帝は新しもの好きの皇帝だったらしく、実は全てセメントでできている。 |
これがカイディン帝廟の見取り図。 ①…左廡 チャウ・チュー山の山腹に建てられており、高低差のある段々畑のような造りになっていて、全部で五段ある。 |
階段のサイドに龍があしらわれているのは、この建造物が皇帝にちなむものであること、あるいは皇帝専用のものであることを示している。
ゲートに赤い横断幕があるのは「フエ祭り2010」が近々開催されるため。 他の廟はシナ風となっているのに対し、カイディン帝廟はこのファサードに代表されるように西洋風となっている。 カイディン帝は13人いたグエン朝皇帝のうち12番目の皇帝。既に述べているが、ベトナムはいつの時代もシナ王朝に対抗するため、積極的にシナ文化を受け入れ、本家よりもシナであろうとした。ところがカイディン帝廟の造りはフランスからの影響を強く受けていることから分かるように、カイディン帝の時代には規範とすべきはシナではなくフランスであったのだ。 |
二段目への階段。西洋風とはいえ、ゲートには龍があしらわれている。
二段目の拝庭には文官、武官、馬、象の像が左右に並んでいる。剣を持っているのが武官だ。皇帝が生前に臣下を朝廷に並ばせた光景を再現している。セメントで造られた臣下は、半永久的に皇帝にお仕えしているというわけだ。ここでは例外的にシナ風が強く出ている。
二段目中央には碑文を収める四阿のようなもの、碑亭が建つ。この屋根にも龍が沢山あしらわれている。
こういうちょっとした階段にも龍があしらわれている。日光東照宮を彷彿とさせる。そういや東照宮も家康の廟だ。 |
二段目から振り返ったところ。カエンジュがその名の通り、真っ赤に燃えていた。 |
三段目への階段。 三段目の両側には西洋風の尖塔、花表柱が建っている。 |
三段目、四段目は特に何もなく、五段目に帝廟本体の天定宮がある。 |
天定宮のファサード。過度に装飾されたバロック様式が強烈に出ているものの、漢字を横書きした「へん」(匸の中に扁)、縦書きにした聯(れん)が取り付けられているのは、漢字文化圏に属していることを示しており、完全にシナ文化を捨て去ることはできなかったことを示している。
天定宮のうち正面は「啓成殿」。「啓」の字は、おそらく年号の「啓定(カイディン)」から取っているのだろう。カイディン帝廟は、外見はダークグレーでシックだが、内部にはガラスや陶器の破片がモザイク画のように鏤められていて派手。天井からはシャンデリアが下がっている。
正面にはカイディン帝のポートレートが飾られている。 |
梅の樹の部分は日本のビール瓶のガラスなのだそうだ。ちなみに陶器は清朝製。セメントはヨーロッパ由来なので、多国籍な材料で造られているということになる。 カイディン帝廟はシナ文化を基礎としつつ、フランス的要素がちりばめられているのだ。 陶器モザイクは、主に文房具、盆栽などを意匠している。 |
カイディン帝廟は、カイディン帝がフランスから帰ってきた頃に建設が始まっている。つまり、生きているうちから自分の墓を作らせているのである。宮殿のような墓なわけだから、死んでから作ったのでは遅いし、それに次代の皇帝に任せたんでは自分好みにはならないわけで、生きているうちに作るのだ。また、廟を作れるかどうかは、在位中の皇帝の力次第。だから、廟の存在しない皇帝は力不足だった、ということでもある。
天井には皇帝の象徴である龍が九匹描かれている。「九」は十進法で一番大きい数字ということで、完全を意味する。 |
カイディン帝廟の中心部分。中央の玉座にはカイディン帝像が置かれている。釣り天井内にはやはり龍が描かれている。
おフランス帰りの皇帝は、ヨーロッパのバロック様式に感化され、このような過剰なまでの装飾を鏤めた帝廟を作らせたのかもしれない。 なお、この柱にも龍があしらわれている。 |
フランス人が作ったという等身大のカイディン帝の像。 |
カイディン帝が使っていたという調度品。螺鈿だろうか? 装飾が凄い。 |
廟の近くに牛がいた。こんなに近くでベトナムの牛を見たのは初めてだ。野放しかと思っていたが、かろうじて首輪はされているらしい。昔の皇帝の陵墓だというのに、規制などないようだ。このおおらかさがベトナムらしくて良い。 |
三段目から眺めた光景。付近には特に何もなくひっそりとしている。 カイディン帝廟はこれで終了。 |
15:30。続いて4代目トゥドゥック帝廟へと向かう。 途中で線香を作る村を通過。色とりどりの扇子のようなものが線香の束。 |