さて、残るは法隆寺。大きく戻らねばならない。

法隆寺本体の前に夢殿を見つけたので、ここから拝観してしまうことにする。夢殿は東院伽藍と呼ばれる部分に位置している。

 
夢殿。『法隆寺の謎』は、この夢殿は八角円堂であって、目指すところは完全を暗示する円であること(完全な円筒の建築は困難)から、夢殿の周囲がすなわちプラダクシナーパタ(円を描く参道)であることを示している。今回、内部の厨子が載っている壇が、完全に円形であることを確認した。新薬師寺の十二神将たちが載っている壇も円形である。現在、夢殿の内陣に入ることはできないが、もし入って拝観するなら、この円状の壇の周りを右回りに巡るべきなのだろう。

しかし現在、夢殿も外側から覗くだけで、やけにあっさりと拝観が終わってしまう。その上順路が半時計回りなのは解せない。


舎利殿、夢殿、礼堂は北からこの順で縦に連なっており、中央の夢殿を囲むように、舎利殿と礼堂が廻廊で連結している。舎利殿の内部は非公開。

寺務員の事務的な態度と観光客のミーハー的な態度が鼻についてしまい、落ち着いて拝観するような状況ではなかったので、さっさと寺域を抜け出した。

東院伽藍を時計回りにぐるりと廻ると中宮寺に行き着くが、法隆寺とは別の寺域なので、さらに拝観料を支払う必要がある。中宮寺の弥勒菩薩にはあまり興味はないし、他に仏像があるような気配は感じられなかった。それだけの寺域面積があるようには思えなかったからだ。中宮寺はパスし、西院に急ぐ。

東院伽藍の西門にあたる四脚門から、東院と西院を繋ぐ参道に出るが、異様に長い。

参道の脇にはいくつかの小さな塔頭が並ぶが、非公開で内部には侵入できない。ただし、総門上に面白いものを見つけた。

 
なかなかひょうきんな獅子たちが護っていたのだ。忿怒の鬼瓦との対比が面白い。

このまま行っても自転車を取りに戻って来なくてはならない。暑い中こんな距離を往復してられないので自転車で西院へ。


西院伽藍中央の中門と五重塔が見える。中学の修学旅行では、夢殿を観たという記憶しかない。おそらくこちらの西院には来なかったのではないか。ひどい手抜きだったのだなぁ。


中門はなかなか重厚。両サイドに廻廊がくっつき、内部の五重塔、金堂を囲んでいる。ここにはなかなか炸裂なやつらがいた。

 
このポーズは凄いでしょ。微妙に上半身だけを傾けている。右の仁王は、右手をだらりとさせ、左手は拳を握って引いている。特に自分が気に入ったのは、左の仁王である。この傾きと右手はもうヒップホップ、ストリート系ではないか! 「よぅ、よぅ! おーいぇー!」


左の仁王だけもう一枚。彼が向いている方向から撮ってみた。右手も凄いが、微妙に力を込めた左手も注目されるべきだろう。そして、天衣がひじのあたりまでずれているのも、彼の動きの激しさを物語っているのではないか。しかし、参ったね、このポーズには。後に引いた上半身と右手の反り。腕と胴の付け根の「水かき」も凄い。今までに出会った仁王の中では最高の印象だ。どの寺の仁王が好き? と聞かれれば文句なしに法隆寺の仁王と答えるだろう。


法隆寺の中枢部分である廻廊内に入る前に、三経院を。西室と呼ばれているが、かつては僧侶の住居だった。現在この堂宇がどんな機能を持っているのかは分からないが、三経院という名からして、経蔵のようなものなのかもしれない。


さて、焦らすのはこれくらいにして、そろそろ廻廊内部へと入りますか。拝観客は廻廊の西南端から入ることになる。入るとすぐに拝観券売り場と、入場ゲートがある。ちょっと興ざめ。中門をくぐらせるわけにはいかないのだろうが、門ほんらいの機能が活かされていないのは残念。


さて、五重塔から観ていきますかね。やっぱり初層に付いている裳階が注目される。法隆寺独特のスタイルだが、五重塔の欄干のラーメンデザインや色は、先ほど観た法起寺の三重塔と同じ。セットで造られたのかも。

『法隆寺の謎』では、五重塔と金堂の裳階部分は、参拝者の動線の確保のために設けられているのだという。すなわち、どちらも中心に参拝対象があることから、プラダクシー・パタなのだという。

この裳階は、堂宇内部と外を区別する装置だ。内部はあくまで仏の世界(内陣)で、裳階(覆い部分)は参拝者のあるべき場を規定している。


五重塔内部。この石畳の部分がプラダクシナー・パタ。


内部中心には、東西南北それぞれにジオラマが配置されている。南から時計回りに「弥勒」「分舎利」「涅槃」「維摩」の四つのシーン。上写真は西面の「分舎利」。並んでいるのは、釈迦如来の弟子たちだ。


こちらは東面の「維摩」。文殊と維摩の激論の様子。左のオレンジ色の顔(日焼け?)が維摩、右が文殊か。網戸が残念。

 
金堂。このデザインも五重塔とセット。寺院の堂宇というよりは、楼閣のようにも見える。


裳階を支える組み物が面白い。

 
まだまだ入堂しませんよ。左は裳階と初層の屋根との間の獅子。重そうだけど笑っている。結構余裕だ。四隅それぞれに獅子がいる。右は初層と二層の間の龍。心なしか不敵な笑みを浮かべているように見える。これも四隅それぞれにいる。こいつらが金堂を支えているのだね。

ではでは、焦らしましたが入堂ですよ。金堂へは東側から入る。

 
と、その前にこれ。なんと階段!先はふさがれているが、外から見れば二層目まで届いていることが分かる。果たして二層目に床はあるのか? それとも単なる保守用の階段か…。ちょっと興奮。

 
内陣向かって左部分は阿弥陀如来(西に当たり、西方極楽浄土を暗示しているのだろう)、右部分は薬師如来(東に当たり、当方瑠璃光浄土を暗示)、そして中央は釈迦三尊。

内陣の前方両隅には、四天王が。かなりおとなしい感じの四天王。あまり強そうには見えない。ちなみに後方両隅に配置されるべき四天王二体は、奈良国立博物館に出張中。


四天王が載る邪鬼は、踏みつぶされているのではなく、組み体操のように支えている。邪鬼さえも協力体制になっているのが興味深い。邪鬼も、もともとは四天王の眷属だという説もある。ここの邪鬼はどこか動物的な感じ。不思議な造形だ。画像は向かって右の邪鬼。左隅の邪鬼には角が一本生えている。


さらに、極楽浄土部と釈迦三尊の間には吉祥天、そして彼女のダンナの毘沙門天(上画像)が瑠璃光浄土部と釈迦三尊の間に配置されている。この静かなメンバーの中でひとり気を張っている。

中央の釈迦三尊はおなじみの飛鳥顔。あまり好きになれない。


内陣で注目すべきものがもう一つある。それは壁画。失火により焼失したが、現在はその再現壁画パネルがはめ込まれている。中央列左の菩薩形の人は、かつて10円切手の図案にもなった。メンバーの中にはいかつい人もいる。全員の名前を知りたいなぁ。上空には飛天が舞っている。

当初はきらびやかな空間だったはず。CGでいいから、その状態を観てみたいものだ。

当初は極彩色だった仏像も、今では色が落ち、素材の一色で、みすぼらしい状態。壁画も剥げたまま。どの寺もこういう状態で安置しているのを、いつも疑問に思う。当初の状態に戻し、それを維持しようとしないのは何故だろう。剥げ、汚れ、煤けている今の状態が仏像にとっての本来の姿ではない。再現するという選択肢はないのだろうか。

「それは興ざめである」という意見もあるだろう。ならばしかし、創建当初の状態はどうなるのだろう。今の状態を美しいと見るのは、今の状態しか見たことがないから言えることだ。

メモを取っていると、係員がペンライトで仏像に光をあてて、とある親子に説明をしはじめた。母親は「聖徳太子が好きで法隆寺来たので嬉しいです!」と興奮気味に言っている。

各所に「文化財保護」と様々な制限事項を掲げているのにも拘わらず、仏像に光をあてる寺務員の根性が分からない。大寺の寺務員は大嫌いだ。

なんだか一気につまらなくなったので早々に金堂を立ちさる。出口は西側。つまり、裳階部分を一周することができない。一体何のための裳階なのか分からない。プラダクシナー・パタが損なわれている。つまり、中央の立体曼荼羅を後方から観ることができないのである。全方向から観るものという仏教空間の意味を全く理解していないのだ。


中門も、五重塔と金堂とセットのラーメンデザイン。


法隆寺三兄弟を大講堂からパチリ。

 
廻廊の途中に建つ経蔵と鐘楼。一見ではそうと見えない。内部には侵入不可。二階はあるのだろうか。もしくは吹き抜けか。


大講堂は平屋で、奈良スタンダード。内部は…あまりよく覚えていない。ということは印象深いものは何も無かったようだ。本尊の薬師如来と四天王がいる。

 
大講堂を出て、鐘楼で見た気になるものたち。

さて、いい加減に廻廊を出よう。拝観順路は西院の西側へと向かっている。


廻廊部分の東に建つ聖霊院。東室。廻廊内部に入る前に見た西室と対になっていて、かつてはやっぱり僧房だった。やたらと南北に長い堂なのだ。

この後、順路は大宝蔵院に向かう。要するに宝物庫であり、様々な寺宝を展示している。この建物はぐるりと中庭を囲む廻廊になっており、西宝蔵と、東宝蔵に分かれているが、百済観音を本尊とする堂宇の役割も担っており、入り口は中門、廻廊の上部(北側)に百済観音が安置されている。

展示されていたもので気になったのは火天(アグニ)の画像。老人なのだが、不動明王のような造形。光背に炎。しかし肌は青色ではなく、火の神らしく赤色。そしてなんと四臂。

他はあまり気を惹くものはなかった。

さて、法隆寺はこれで終了。この後どうするか。昨日時間切れで行けなかったならまちを探索するか、東寺に行くか。明日は割と広範囲を廻るので、京都に戻っている時間はない。ならば今日のうちに東寺を訪問しておこう。

さっさと自転車を漕いで法隆寺駅に戻る。遅い昼御飯を駅付属のハートイン(JR西日本のコンビニ。東日本のニューデイズにあたる)で買って、再びこ汚いJR車両に乗り込んだ。


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