さて、白毫寺バス停まで10分の下り坂。登りの時より足への負担が大きい。一発目で足を痛めてはいけない。

バス停で時刻を確認すると、通過するバスは一時間に2本と極端に少なく、次のバスまでの時間がもったいない。バス停に屋根が付いていれば何とか暑さをしのげるのだが…。

一つバス停を歩けば本数が増えるので、そこまで歩いてしまう。バス停に着いたところで、すぐ近くに次の訪問先である新薬師寺への参道入り口があることが判明。引き続き歩くことに。

しかし、かなり歩かされるなぁ。まだ1ヶ寺しか回っていないのに服は汗でびっしょり、足も少々きつい。

歩いていると水滴が手に落ちてきた。こんな晴天時に雨が降るとは思えないし、蝉か? と思っていたら、自分の汗だった。顔を伝った汗が、手に落ちていたのだった。また、自分の首筋に何かが移動する感触があったので虫が服に入った! とあわてたのだが、それも結局自分の汗。帽子を持ってきてよかった。無かったらきっと熱中症になっていたはずだ。

ずいぶん汗をかいてしまったので、途中の自販機で水を買って飲む。

ようやく新薬師寺へ。


新薬師寺は田園の中にあった。これも京都では考えられない光景だ。ただ、大昔は今以上に田んぼだらけだったのかも。

中央の森の中に新薬師寺があると思っていたのだが、実は鏡神社という全く別の神社であることが判明。新薬師寺はそのもっと奥だ。


新薬師寺の南門。門の下で涼んでいる老人が数名いたが、こういうのは邪魔。門は通過するもの。白毫寺のお堂に腰掛けて休む人といい、なんだかなぁと思う。

新薬師寺のパンフレットは渋い。今どきモノクロだ。

 
平たい本堂。創建当初は食堂だったようだ。この平屋ぶりは典型的な奈良の古寺といった風だ。


薬師如来を囲むように十二神将が円陣を組んでいる。

実は今回の旅行に出る直前に、仏教空間の意味解釈の助けになるだろうと、武澤秀一『法隆寺の謎を解く』(ちくま新書)を読んでおいた。本書は、プラダクシナー・パタ(直訳で「右回りの道」)をキーワードに、法隆寺の建築・空間を読み解くという内容。要するに、参拝者の右回り(=右繞、仏に対する最高の尊敬表現)の動線が寺院建築や、空間構築の重要な成立因子となって影響を及ぼしていた、ということであり、これまでの自分の、戒壇めぐりや、輪蔵、塔や三門などの信仰空間・装置への着目と通ずるものがある。

筆者は、この新薬師寺の薬師如来たちの載っている円壇も、プラダクシナー・パタに関係しているのではないかと推測している。新薬師寺に、この円壇の周りをぐるぐると回るような儀式があるのかどうかは分からないが、参拝者がぐるぐると回って観ることを前提とした設計であることは確かなのだ。

このプラダクシナー・パタに従って、右回りに十二神将を見ていきましょうかね。

 
右はインダラ。巳。国宝指定名称ではパジラ。門番のように槍を構えて動かない強い意志を感じる。

左はアンティラ。国宝指定名称ではヴァジラ。目をきょとんとさせているので、なんだかサルに似ているなー…、そーいや十二支に対応していたっけ! と今更ながらに思い出す。説明を見るとやはり申。ひょっとしたらそれぞれの動物に似せた表情に作っているのかー!? と他の神将もチェックしたのだが…。このアンティラぐらいだったなぁ。サル顔は偶然なのか…? 無言で撲殺されそう。兜を被るのは、他にマジラとインダラ。ちょっと暑そう。

 
右はミヒラ。酉。国宝指定名称ではインダラ。腰の捻り具合はシンドゥーラと似ているが、今度は左手が高く上がっている。もしかしたら何か武器を持っていたのかも。「かかれ!」とでも言っているのかもしれない。左手を大きく挙げているのは、左利きだから?

左はサンティラ。午。国宝指定名称ではアンティラ。決めポーズ。槍の先で相手を軽くねじ伏せ「どうです? もっとやりますか?」と涼しく言い放つような感じ。こいつには四天王のように獅噛がある。獅子の頭部が袖に付いていて、まるで獅子の口の中から腕が生え出ているように見えるもの。この奇想は大好きだ。見た限り、他の神将たちには無さそう。何故サンティラにだけ? それぞれ個性を出しているのかも。

 
右はシンドゥーラ。寅。腰を捻りお茶目なポーズを取っている。両腕の位置も面白い。「なんだぁ? やんのか?」と挑発的な表情。左利きだろうか。

左はチャツラ。丑。国宝指定名称ではサンティラ。髪が後ろに向かって直線的に立っている。貫禄のある顔立ち。左手で剣を持ち、右手で「止めよ!」。彼はどうやら完璧に左利きらしい。

 
右はクンビーラ。亥。国宝指定名称ではチャツラ。鼻が丸くて大きく、お世辞にも男前ではないが、忿りで髪が逆立ち逞しい。剣を突き出し、今にも襲いかかってきそうなそんな感じだ。

左はマクラ。卯。こちらは立派なオトコマエ。梵天のようなクールな表情をしている。ポーズもどこかクールだ。髪も逆立ってないので、忿りを抑えている様子が出ている。やっぱりクールだ。

 
右はヴィカラーラ。子。右手にヴァジラ(金剛杵)を持っている。なんだか蔵王権現のようだ。髪が逆立ち、その忿りは尋常ではない。これが、もしヴァジラの代わりにフルーツ牛乳だと、銭湯になる。

左はパジラ。辰。国宝指定名称ではクンビーラ。パジラのみ江戸後期の地震で壊れ、20世紀の後補。しかし弓だけでは武器にならないのでは? もしかしたらこの弓で敵を縊り殺すのか? 静かにこっちを見てニラんでます。

 
右はマジラ。未。矢を両手で持って静かに構えている。足もまっすぐだし、他の神将が動とすれば、こいつは静だね。兜も被っているから、髪による忿り具合も表現できないし。ところで弓は持っていないようだが、彼らの力を持ってすれば腕の力だけでも矢を飛ばせそう。

左はヴァジラ。戌。国宝指定名称ではミヒラ。この寺一番の人気もので、パンフレット「新薬師寺の栞」の表紙写真を飾っている。剣の持ち方もかっこいいが、左手の「止め」具合も緊張感があっていい。短髪にワックスをつけてねじって逆立てたようなヘアスタイルがパンク。髪もオレンジ色だしね。ギターを持っていてもなんら違和感無いかも。そーいやみうらじゅんはよく仏像をバンドに見立てていたっけ…。


こちらは神将リーダーのヴァジラの彩色ヴァージョン。こんな像がどこかにあるのか? と、堂内の寺務員に訊いてみたのだが、「いやぁ、私わかんないんですよ…」と…。調べてみると彩色されたCGで、製作当初はこんなにも極彩色だったのだとか。肌が青って凄いな。そーいや五大明王も青だったりするよな。シヴァ神も青だし、インド人の色彩感覚って凄いよな。やっぱり髪はオレンジなんだね。

さて、中央の本尊薬師如来はオトコマエとは言い難い。妙にいなか臭いんだな。とにかく目が大きく、前から見るとこっちに迫ってきているような印象を受ける。ところでこの薬師如来は十二神将より後になって作られたのだとか。とすれば、これらの十二神将はもともと別の薬師如来の眷属だったということになる。元の主人は誰なんだろう。とにかく今は新しい主人のもとで働いている彼ら。

ちなみに、神将たちにはそれぞれ7000の配下があるというから、薬師如来には総じて7000*12+12(十二神将)+2(日光・月光菩薩)=84014もの家来がいることになる。すげー。

「七薬師」というように薬師如来は7という数字に縁がある(ちなみに西方の阿弥陀如来は九)。神将の配下7000というのは、薬師一体につき1000ということか?


堂内に入ってすぐに目に付いたのがこちらのステンドグラス。伝統的な仏堂に。興味深い。張り紙によれば「東方からの瑠璃光を浴びてください」とのこと。確かにこのステンドグラスは東面にあるし、薬師如来は東方瑠璃光浄土の主。やるなぁ、新薬師寺。いきなことをするもんだ。


鐘楼。

この寺には、裸の地蔵菩薩像があるらしく、秘仏となっているが、希望があれば開扉するとか。希望次第で公開するということは、どうやら信仰上の理由で秘仏としているのではなく、裸ということで秘めているようだ。なにしろ股間には男性器が付いているというのだから…。基本的に仏像は両性的なのだが、この地蔵菩薩は完全に男性として作られたようだね。この地蔵像、「おたま地蔵尊」と呼ばれているが、うーん…というネーミングセンスだ。帰ってきてから存在を知り、拝観を希望すれば良かったなぁと後悔。もともと本寺に安置されていた地蔵菩薩の胎内から発見されたようで、まさに「おたま地蔵尊」は生まれたままの姿、ということになり、面白い。

公式サイトでこの「おたま地蔵尊」の写真を見たのだが、割と大きな像であるという印象を受けた。胎内仏といえば、マトリョーシカの如く元の像より小振りになるのが常なのだが、「おたま地蔵尊」に関しては、むしろ着せ替え人形の如くほぼ同じ大きさであるのだという。不思議な構造をしているものだ。

新薬師寺から南の地域は「山の辺の道」と呼ばれる。『万葉集』などにも詠まれた古道で、社寺や古墳が残る。

当初、新薬師寺は七堂伽藍をそなえ、1000人もの僧が居たそうだが、今はその面影はない。奈良は古都と言われるが、不名誉な言い方ではあるが「廃都」というのが最もふさわしいのではないか。のどかさの裏にあるさみしさ、これが奈良の魅力なのではないだろうか。

ちなみに新薬師寺の「新」は、西ノ京の薬師寺に対しての「新」という意味ではなく、「霊験あらたかな」という意味のようだ。ただ「日本の莫高窟」のコピーは言い過ぎだし、パンフレットの解説も、解説者の主観的感想が入り交じり、読んでいてうんざりさせられる。

新薬師寺を出ると既に多少の疲労感。やばい。元気を出していかないと。あと10ヶ寺は回るつもりなのだから…。


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