尊勝院は坂道を登り切ったところにあった。なかなか狭い生活道路を抜けた先に尊勝院があった。ウォーキングコースになっているようだ。
ここも非公開文化財特別公開として特別公開をしている。尊勝院はこれまでほとんど公開されることがなかったらしい。
内部の撮影は許可されなかったので、ポスターで内部を紹介する。
さらに、印象で内部の配置を図にしてみた。縮尺はいい加減。
尊勝院は青蓮院と同様天台宗であり、その本尊を元三大師としている。鬼大師で有名な良源だ。
内部の印象としては、護摩の焚きすぎで煤だらけということだ。ただ、その煤の下にはかなりの極彩色での装飾が施されていることが分かる。梁や桁には絵がびっしりと描き込まれている。桃山式の豪華絢爛といったところ。
まず、内陣と外陣に分かれている。古い天台宗の形式だ。
中央奥には元三大師を祀る厨子。扉の四枚のパネルの内側にはそれぞれ一体ずつ四天王が描かれていた。厨子は根本中堂で観たようなものだった。これも彫り物が豪華絢爛。厨子の外側四方も豪華な彫り物が施されていた。
元三大師の厨子の左には地蔵菩薩像、右には愛染明王像が安置されていた。この取り合わせはかなり異色だ。
元三大師の手前、上を見上げると梁に描かれた麒麟があった。
元三大師の眼前には護摩壇があり、その頭上には、天蓋がありその中には梵字でアークが描かれていた。
さて、尊勝院の本堂内は元三大師だけではない。その左からぐるっと回ってみてみよう。
元三大師の左手には、千手観音像が立っている。
そしてその裏には、厨子が。しっかりと閉められており、開扉はされていないが、内部には青面金剛/荒神が安置されているとか。厨子の左右には童子像が置かれているが、名前は不明。
その厨子の前には鏡が置かれており、猿が支えているのが興味深い。荒神、すなわち庚申ということで、猿がその眷属となっているのだ。
さらにその鏡の前には、四体の猿が二組横に並んでいた。「見ざる言わざる聞かざる」の三猿かと思いきや、一つ多い。しかも何も塞いでいないため、全くノーマルな猿なのだ。係員の若い女性(おそらく大学生)に訊いてみると「思わざる」だとか。面白い。
人間の思考を塞ぐことはできないことを示している。人はそれぞれ違うことを考えて生きている。そして思考をやめさせることも直接的には他の誰にもできないことも示している。それだけ思考というのは強いのだ。
外陣の左側には、くくり猿が下げられていた。これもやはり庚申待ちと関係しているらしい。
元三大師の厨子の左にぴったりと置かれていたのは毘沙門天だった。
元三大師の厨子右方向には、これまた厨子入りの地蔵菩薩。これもかなりの装飾だ。厨子の中に立てかけられている錫が気になる。だって、この地蔵菩薩像の手は、錫を持つようには作られていないからだ。もともとは他の地蔵菩薩がここにあったのだろうか…。
地蔵菩薩の厨子の裏手には、左から如意輪観音像、不動明王立像、不動明王座像、厨子が並んでいた。不動明王座像は、係員の説明によると「笑い不動」と呼ばれているらしい。相当無理しないといけないが、なんとなく含み笑いを浮かべているようにも見える。
内陣の天井近くに掲げられていた写真が気になってしまった。中央には、馬に乗った天部の像らしきもの、その脇侍として右には間違いなく不動明王。左は毘沙門天のようだ。馬に乗っているという時点で興味深い。
気になったので、係員に「この写真だけ撮ることはできないか」と聞いたところ、「中での撮影はだめだが、外からなら…」という回答を得たので、外から無理矢理撮った。なんだかどうも線引きが変だな…。
ともあれ、一体この像は何者なのだ? 係員に訊いても「分からない」というばかり。分からないなら調べてくれ、分かる人に訊いてくれ。800円という決して安くない拝観料を払っているのだ。
写真の下の説明によれば、どうやら下関愛宕寺本尊の写真のようだ。馬に乗っているのは愛宕大権現らしい。こんな形態を取りうるのか!
少し調べてみると、愛宕権現の本地は勝軍地蔵と考えられているらしい。騎馬し、兜と鎧を纏った異形の地蔵菩薩だ。また、愛宕権現はカグツチとも同一視されるとか。カグツチは製鉄の神。そこから武神としての性格を持ったのだろうか。
しかしその写真が何故この尊勝院にあるのだろう。訊いても「分からない」と言うばかり。新たな拝観客が来ると、自分を無視し、ルーティンとなっている説明をし始めた。この特別公開では疑問を抱くこと、質問をすることを封殺されている。
この子たちはずっと同じことを一日しゃべり続けるのだろう。このどこが「特別」公開なんだか。
分からない部分はそのままになってしまい、何のために高い拝観料を払っているのか分からなくなってしまったが、尊勝院自体はすごかった。
次は金戒光明寺。少し遠くなるのでバスに乗る。
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