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新緑の京都 2009年5月9日

妙心寺塔頭麟祥院

みょうしんじたっちゅうりんしょういん

京都府京都市右京区花園妙心寺町64

JR山陰本線花園駅下車徒歩5分

マピオン

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妙心寺塔頭麟祥院

麟祥院は妙心寺境内の北部にあり、今回特別公開されている塔頭の一つ。

すべての丸瓦に、「◇」に「三」となっている。以前より麟祥院を通り過ぎるたびに面白いなぁと観ていたが、案内員に訊いてやっとその意味が分かった。これは稲葉家の家紋だという。ここ麟祥院は春日局の菩提寺であり、春日局の嫁ぎ先が稲葉家ということで、至るところに稲葉家の家紋があるというわけ。春日局が斎藤家の出身でも、あくまで嫁ぎ先の家紋を採用するのか。

麟祥院の境内図。

左は山門前のちょっとした庭園。手水鉢や瓦などが置いてある。右は山門をくぐり、方丈方面を向いたところ。この道の先に方丈前庭がある。

上の石畳の左手にある庫裡。

庫裡から入って方丈へ、という動線を確保している寺院は多いが、ここ麟祥院は庫裡を通らず、直接方丈へと入ることができる。実はこの動線のほうが正式だ。

なぜなら、上のように方丈にはちゃんとした玄関がついているものだからだ。入ってすぐ火頭窓があり、方丈前庭がその先に見える。この玄関がただの飾りものだったら、火頭窓など付ける必要がない。

ほんらい玄関を通って方丈にアクセスするように動線が設計されているのは、次のことからも分かる。拝観者はまず山門をくぐり、石畳の先にみえる玄関を遠くに見る。方丈前庭は白壁にさえぎられて見えない。火頭窓が付いてはいるが、山門をくぐってすぐの場所からは先の様子が分からない。玄関に近づくにつれ火頭窓ごしに方丈前庭の様子が少しずつ分かるようになる。要するにじらしているのだ。このように一気に展望が開けるのではなく、段階を追って見せていく仕掛けが施されているのは明白だ。そしてそんな仕掛けをわざわざ施すのは、玄関を通って方丈へとアクセスするのが正式な動線であることを示している。

最初から全てを見せてしまわないのは、拝観者に期待を持たせる手法だ。そしてある時点で一気に全てを明らかにさせることで、拝観者に驚きを与える。ちなみに東京ディズニーランドも同じような手法を使っている。メインゲートをくぐるまで中の様子が分からない。ゲートをくぐった先は少しゆるい登り坂になっており、ディズニーランドの象徴であるシンデレラ城はまだ見えない。坂を登らせることにより、ゲスト(ディズニーランドでは客のことをこう言う)の心拍数をあげる。まずゲストが向かうのはワールドバザールというアーケード街。シンデレラ城ははじめアーケードによって隠されているが、進むごとに少しずつ見えてくるのだ。こうすることにより、期待感を煽り、夢と魔法の国に来たということを強く印象づける。そういえばディズニーランドの入場券はチケットではなくパスポートだ。日本ではないのである。

それと同様に、寺院もその内部が異世界であることを印象づけるために、このようなアプローチを採っている。

火頭窓から麟祥院方丈を望む。

そして麟祥院の内部が明らかになった。玄関はいってすぐに手水鉢が据えられている。水が反射する光がまぶしい。手水鉢に向かって敷き詰められた石畳がいい。

方丈前庭。大法院とは違って光にあふれている。また、退蔵院とも違って池がない。それぞれに趣がある。右画像の中央に見えるのは、先ほど見た火頭窓だ。

方丈内には色々と興味深いものがあった。

まず、西側の間、下間内の襖には、海北友雪による「西湖図」が描かれている。元々麟祥院は花園高校の付近にあったのだが、明治になってこの地に移築された。その際にサイズダウンが図られ、襖の数が少なくなったために、本来の配置とは違っている。出入り口側の襖には何も描かれないものだが、襖の数が減ったことにより、そのサイドにも「西湖図」が描かれている。つまり、間の内部に入って全ての襖を閉めると、360度全ての方向が「西湖図」となる。意図したのかそれとも偶然なのかは分からない。

さて、この「西湖図」、中国の景勝地を描いたもので、桃源郷のような扱いになっている。よく禅寺に描かれるモチーフ。ギリシャのメテオラのような岩や、眼鏡橋のような奇岩も描かれている。

ところで作者の海北友雪とは、春日局の養父である海北友松の息子。

方丈中央の室中には、とんでもないものが襖に描かれていた。

要するに雲龍図で、モチーフ自体はたいして珍しいものではない。驚いたのは、雌雄が対になって描かれていることである。まず龍に雌雄があったことに驚くが、いったい雌はどんなふうに描かれているのか興味がある。残念ながら雌が描かれている襖は現在京都国立博物館で開催中の「妙心寺展」に出典中だったが、代わりにレプリカというか写真が置かれていて、雌の特徴がよく分かった。

さて、雌のことはお楽しみとして後述するとして、室中の間の襖絵もサイズダウンによって襖の数が減っている。本来ならば、左右の襖一続きにそれぞれ雌雄が描かれ、向かい合わせになるのだが、サイズダウンにより、「」のようにカギ括弧が対になるよう「折り曲げられて」配置されいていた。このような無理をしてまで配置しているのは興味深い。この雲龍図も先ほどの西湖図を描いた海北友雪の筆に拠るもので、西湖図が幽玄の世界を描いたのに対し、雲龍図は荒々しく描かれており、同じ人に拠るものとは思えないほど雰囲気が違う。

それではいい加減に、じらしておいた雲龍図の内実をレポートしよう。

まず雄。今まで見てきた龍と同じ。角が上に向かってするどく生えていて、目の上の眉は村山元総理を超える3D眉で、しかも針のように固そうだ。しかも太い。髭も無精髭を伸ばしたようにのびている。鼻毛も生えている。頭の上はつるっとしていて何も生えていない。面白いと思ったのは、白目の部分に金が使われていたことだ。

龍というのはいくら荒々しく描かれていても、どこか間の抜けたような気がするのは、あの驚いたような目のせいだろうか。大きく見開いた目に点のような黒目。

さて、雌。何が違うと思いますか? 案内員もそう私に問いかけた。よく見比べ、正解した。それは、角が垂れていること。正確には角が下に向かって生えている、ということだろうが、まるで犬やウサギの耳のように垂れている。その他に、案内員も気付かなかった雌の特徴を見つけた。それは、眉が幾分ソフトに描かれているということ。そして鼻毛が一切描かれていないことだ。やっぱり女の子ということだろうか。面白いのは、その綺麗に処理された鼻からは強い風が、いや鼻息が噴出していることだ。女の子は一体どこに行ってしまったんだ、という感じだが、一番面白いのは「鼻息が出ている」ということを、見ている者が分かるそのことにある。というのは、鼻息というのはそもそも見えるはずのものではないからだ。気温が低ければ白くなって見えるが、強く吐いた際には見えない。つまり、ほんらいなら絵に描けないはずのものなのだが、それが分かる。つまり、漫画チックな表現をしているということである。まっすぐのびる何本かの線が、漫画的記号となって息を表しているのだ。

ともかく、雌が鼻息を出している理由については、沖縄のシーサーを想起すると分かるような気がする。シーサーは普通対にして作られるが、口を閉じているのが雄、開けているのが雌だという。雄は幸せが逃げないように口を閉じていて、雌は幸せを吸い込んでいるのだそうだ。吸うと吐くとで違いはあるが、閉じているものに対して開けるというのは自然な思いつきなのだろう。

そして上間の襖には瀟湘八景図。実在しない想像上の農村を描いたもの。これも友雪によるものだ。この間には百椿図の描かれた屏風も展示されていた。これは狩野元珍によるもの。図の縁に使われている飾り紙(?)には鳳凰などが描かれていて、中身よりもゴージャスという本末転倒なことになっている。

さて、もう一つの見所は方丈から渡り廊下で接続している御霊屋。春日局の廟だ。

御霊屋までのアクセスが楽しい。御霊屋ということで、方丈より位置を高くしている。屋根の破風は、退蔵院でも見た袴腰の玄関に似ている。

御霊屋の丸瓦にも◇に三の稲葉家の家紋が。扉の内側にもある。右は内部に安置されている春日局木像。奥の背景はベースに金箔、その上に蓮が描かれている。写真には茎だけが見えている。写真には写っていないが、真上には欄間のようなものがあり、仁和寺の唐門のように細かい透かし彫りが施されている。そしてその中央には松に鳥が、台座下には三匹の獅子が彫られている。左の獅子は緑色の体毛で座っている。真ん中の獅子は白の体毛で手を合わせている。右の獅子は緑の体毛で、たてがみとしっぽが炎のようになびいている。これらの作者は狩野貞信で、襖絵も合わせて描いているが、獅子の作品数は少ないようで、貴重だとか。

御霊屋は小堀遠州によって作られたもので、元は御所の釣殿で、それを移築したもの。以前は能舞台として使われていたが、春日局の死後、彼女の廟となった。天井は小組格天井となっていてゴージャス。

麟祥院の「麟」という字は麒麟の「麟」であり、雌の方を表すという。さらに転じて偉大なる人物を指す。麟祥院は春日局の法号でもあるが、雌の麒麟を以て春日局暗示しているのは言うまでもないことだろう。

正面の蟇股の内部には何らかの獣が彫られてあった。巻き髪があって獅子のようでもあるし、鼻の先が長くて丸まっているので獏の可能性もある。ちなみに左右両サイドの蟇股の中には鳥が彫られている。

右の画像は、菊の紋。御所の釣殿だったことを示すものだ。

方丈と御霊屋を繋ぐ回廊上から周囲を見てみる。左は方丈東側。手前には今でも使われているとおぼしき井戸、先には鎮守社がある。ちょっとした苔庭になっているようだ。右は方丈の東側にある小門と回廊。先は墓地となっている。

左は先ほどの小門の先の墓地。先に見えるのは位置からして海福院の庫裡だろう。

最後に御霊屋から方丈を。

このアングルが一番素晴らしい。

さて、次は隣華院という塔頭。

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